「上げてあげたい。けれど、その原資がどこにあるのか分からない」。この二つの気持ちの間で立ち止まる経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。
中小企業の賃上げで実際に効いてくるのは、決断力よりも段取りのほうでした。売価の中に人件費の上昇分が入っているか。一人あたりの粗利を毎月見ているか。配り方を先に決めているか。原資は、この三つから生まれてきます。
本記事では公的な調査データから中小企業のいまの姿を確かめ、原資をつくる5つの順番をご紹介します。ご一緒に考えていけたら嬉しく存じます。
賃上げをしたくない経営者は、ほとんどいらっしゃいません
賃上げに後ろ向きな経営者は、ほとんどいらっしゃいません。日商・東商の調査では、2026年度に賃上げを実施済・実施予定と答えた企業が71.3%にのぼりました。問題は意思ではなく、原資のほうにあります。
もっとも、同じ調査を細かく見ていくと、規模による差もはっきり出ていました。数字を三つの角度から追いかけてみます。
この数字は、日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」によるものです。調査は2026年4月7日から5月18日にかけて実施されました。全国47都道府県の345商工会議所を通じ、2,260社から回答を得ています。
その差は 11.4ポイント
(業績の改善なしで実施) 60.9% 従業員20人以下では 66.3%
前年より 3.5ポイント増
金額は 11,366円 と 9,170円
7割超が賃上げをしている一方、20人以下では6割にとどまります
同調査で賃上げの実施率を見ると、会社の規模によってはっきりと分かれます。全体では実施済39.2%・実施予定32.2%の合計71.3%。従業員20人以下の小規模企業では、合わせて59.9%でした。その差は11.4ポイントになります。
「現時点では未定」と答えた企業にも、同じ傾向が出ています。この調査では全体23.0%だったのに対し、20人以下では31.2%。3社に1社が、まだ判断を保留している計算です。
ただし調査データを前年と比べると、小規模企業の実施率も2.2ポイント上がっています。全体の伸びが1.7ポイントですから、小さな会社ほど無理を重ねながら追いついてきた一年だったとも読めるところです。
規模が小さいほど、賃上げは経営そのものを揺らします。だからこそ「上げるかどうか」の前に、原資の話が要るのではないでしょうか。
業績が改善していないのに賃上げをした会社が、6割を占めます
同じ調査で、賃上げを実施・予定した企業のうち業績が好調で踏み切った「前向きな賃上げ」は39.1%にとどまりました。残る60.9%が「防衛的な賃上げ」です。業績の改善が見られないまま、それでも上げた会社が6割を占めました。
小規模企業ではこの比率がさらに高く、66.3%。調査データを前年と比べると3.5ポイント増えています。全体の防衛的賃上げが0.8ポイント増にとどまったのと比べると、小さな会社ほど追い込まれている構図が浮かびます。
この数字を見たとき、私たち編集部も少し息をのみました。賃上げが「業績への報酬」から「事業を続けるための必要経費」へと、意味を変えつつあるためです。
意味が変われば、備え方も変わるはずです。報酬なら業績が出てから決められますが、必要経費なら先に原資を仕込んでおく必要が出てきます。
前向きな賃上げと防衛的な賃上げの比率を、図で確かめておきます。
※出典:日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」集計結果(2026年6月8日公表)。賃上げを実施済・実施予定と回答した企業を100とした場合の割合。
理由の1位は物価上昇、2位は人材の確保でした
同調査には、防衛的な賃上げに踏み切った982社に理由を尋ねた設問があります。1位は「物価上昇への対応」で68.2%、2位が「人材の確保・採用」で66.7%でした。3位は「最低賃金引上げを踏まえた対応」の41.5%です。
上位2つは、いずれも社外の事情です。物価も人材市場も、自社の努力だけでは動かせません。他社の賃上げに合わせた対応は20.2%にとどまり、横並び意識で上げている会社は少数派でした。
一方、この調査で賃上げを見送った129社の理由も見ておきたいところです。1位は「売上の低迷」55.0%、2位が「資金面での余力に乏しいため」44.2%。そして5位に「人件費の価格転嫁が難しいため」が34.1%で入っています。
見送りの理由の中に、価格転嫁が顔を出している。ここが、この記事でご一緒に見ていきたい一点です。
賃上げの下限は、いま社外から決まってきます
賃上げの下限は、いま社外から動いています。厚生労働省の審議会がまとめた令和8年度の地域別最低賃金の目安は、全国加重平均で1,176円。引上げ額は55円、引上げ率は4.9%です。自社の判断以前に、水準そのものが押し上げられていく流れです。
下限が動けば、その上の等級も連動します。目安の中身と、自社への当てはめ方を順に見ていきます。
この目安は、中央最低賃金審議会が令和8年7月28日に取りまとめた答申によるものです。ここから各都道府県の審議会で実際の金額が決まっていく流れになっています。
令和8年度の目安は、全国平均で1,176円になりました
厚生労働省の答申によると、全国加重平均の引上げ額の目安は55円でした。前年度の66円からは縮んだものの、率にすると4.9%です。改定後の全国加重平均は1,176円という水準に届く見込みです。
この統計上の引上げ率4.9%を、自社の賃金表に当てはめてみるとどうでしょうか。時給1,200円の方が5%上がると、月160時間で月額約9,600円の増加。社員10名なら、年間およそ115万円が固定費に積み上がる計算です。
改定の全体像を、数値で整理しておきます。
※出典:中央最低賃金審議会「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)」(令和8年7月28日)。最終的な金額は各都道府県の審議会が決定します。
こうした固定費の増加は、資金繰りの組み方にも影響してきます。手元資金の考え方については中小企業の資金繰りについて整理した記事でもご紹介しました。
東京都はAランクで、54円の引上げ目安が示されています
厚生労働省の答申では、各都道府県が3つのランクに分けられました。目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。東京都はAランクにあたります。埼玉・千葉・神奈川・愛知・大阪も同じ区分です。
今回はAランクよりB・Cランクの目安額が大きく、地域の間の差を縮める配分になりました。地方に事業所をお持ちの会社ほど、上げ幅が大きく効いてくる構造です。
もっとも、目安はあくまで目安。最終的な金額は各都道府県の審議会が決めていく仕組みです。答申の内容は厚生労働省のページで確認できますので、自社の所在地のランクだけでも押さえておくと安心です。
問いは「上げるかどうか」から「原資をどこから」に移りました
下限が外から動く以上、「上げるかどうか」を悩む余地は年々狭まってきました。問いはすでに、「どこから原資をつくるか」へと移っています。
ここで大切なのは、原資を人件費の中だけで探さないことだと感じています。賞与を削って月給に回す、役員報酬を下げて充てる。こうした社内での付け替えは、一度は効いても二度は効きません。
外から来る力には、外に開いた手当てを。次の章では、その入口である価格転嫁の数字を見ていきます。
原資が細るのは、値段の中に人件費が入っていないからです
賃上げの原資が細る理由は、売価の中に人件費の上昇分が入っていないことにあります。中小企業庁の調査では、コスト全体の価格転嫁率は54.2%。労務費だけなら50.0%でした。
価格転嫁とは、上がった仕入れや人件費の分を売価に反映させることです。例えば材料費が5%上がったとき、その分だけ販売価格を上げる動きを指します。
上がった人件費の半分が、値段に乗っていない状態です。ここを動かさないまま総額だけを決めても、原資はどこからも出てきません。
この調査データを手がかりに、転嫁が進まない理由と手当ての方向を順に見ていきます。
出典は中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」です。令和8年6月26日に公表されました。
※出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日公表)。
価格転嫁率は54.2%、労務費だけを見ると50.0%です
同調査でコスト要素ごとに転嫁率を並べると、順番がはっきりします。原材料費が55.7%、労務費が50.0%、エネルギーコストが48.9%でした。原材料費と労務費の間には、5.7ポイントの開きがあります。
原材料の値上がりは、仕入先からの通知書という形で目に見えます。相手にも見せられる紙があるわけです。一方で人件費の上昇には、そうした紙がありません。だから話に出しにくく、後回しになりやすいのではないでしょうか。
同じ調査で、官公需の転嫁率も気になる数字でした。48.4%と5割を切り、前回から約4ポイント下がっています。特に都道府県や市区町村への納入で、国よりも低い傾向が見られました。
主な数字を一覧に整理します。
| コスト要素 | 転嫁率 | 全体との差 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 54.2% | — | 中小企業庁 価格交渉調査 |
| 原材料費 | 55.7% | +1.5ポイント | 同調査 |
| 労務費 | 50.0% | ▲4.2ポイント | 同調査 |
| エネルギーコスト | 48.9% | ▲5.3ポイント | 同調査 |
| 官公需(参考) | 48.4% | ▲5.8ポイント | 同調査 |
交渉は9割で行われています。通っていないのは中身のほうです
同調査には、もう一つ見落とされがちな数字があります。価格交渉そのものが行われた割合は90.7%。前回の89.4%からさらに増えました。交渉のテーブルには、ほとんどの会社が着いているのです。
つまり足りないのは、交渉に踏み出す勇気だけではありません。テーブルに着いたあと、何を根拠に、どの数字を示すか。その中身のほうに課題が残っているようです。
交渉が行われたのに全額転嫁に至らなかった企業のうち、「納得できる説明があった」と答えた企業は約6割でした。裏を返せば4割は、納得のいかないまま持ち帰っていることになります。
価格交渉の進め方そのものについては、中小企業の価格転嫁について整理した記事で詳しくご紹介しました。あわせてご覧いただけたら幸いです。
労務費は、後から足すのではなく先に載せるものだと考えています
原材料費と労務費で転嫁率に差がつく理由は、示し方の違いにあると私たちは捉えています。原材料は請求書という「相手にも見える紙」で動きますが、人件費にはその紙がありません。
だとすれば、紙をこちらで作ればよい。最低賃金の改定額、社会保険料の料率、自社の平均賃金の上昇分。この三つを並べた一枚があれば、労務費の上昇は目に見える事実に変わります。
先に載せておけば、値上げのお願いという構図から抜けられます。お願いには断る余地がありますが、コストの共有には交渉の余地しかありません。ここが分かれ道です。
賃上げの原資をつくる5つの順番
原資づくりは、大がかりな制度改革ではありません。順番を変えるだけで動き出す部分が、思いのほかあります。私たち編集部も試行錯誤の途中ですが、取り組みやすい順に5つご紹介します。
つまずきやすいのは、総額から入ってしまうことです。「いくら上げられるか」を先に決めると、値決めも配り方も後追いになってしまいます。
先ほどの調査データが示していたのは、原資が細る場所が社外との取引にあるということでした。ですから順番も、社外に近いところから並べています。
別の行に分ける 見積書で原材料費・外注費・労務費を分けて書く。来月の請求書1枚から始められます。
先に持つ 最低賃金の改定幅・社会保険料の料率・自社の平均賃上げ率。すべて公表数字です。
毎月見る 粗利益 ÷ 平均人数。人に配る話だから、分母を人にそろえます。
定着に振り替える 1年で辞めれば採用費はまるごと消えます。在籍者の処遇に回すという選択肢。
先に決める 誰に、どういう理由で、いくら。基準を置いてから総額を積み上げます。
順番1 労務費の上昇分を、別の紙に分けて出す
最初の一歩は、見積書の作り方を変えることです。原材料費・外注費・労務費を一枚の中で分けて書く。労務費が独立した行として立つだけで、話題にできる対象に変わります。
行の下に、根拠を一行添えておくと親切です。「令和8年度の最低賃金改定に伴う人件費上昇分」と書けば、相手も社内で説明しやすくなります。相手の稟議を通しやすくすることが、こちらの転嫁率を上げる近道でした。
来月の請求書一枚からでも始められます。全取引先に一斉に出す必要はなく、いちばん話しやすい一社から試してみてはいかがでしょうか。
順番2 値上げのお願いではなく、値決めの根拠を先に持つ
二つ目は、交渉の立ち位置を変えることです。「値上げをお願いします」と切り出すと、こちらが頼む側になります。「コストがこう動きました」と伝えるなら、事実の共有という形になります。
根拠として持っておきたいのは三つ。最低賃金の改定幅、社会保険料の料率、自社の平均賃上げ率です。いずれも公表されている数字ですから、相手にも検証が可能です。
先ほどの調査で、見送りの理由の5位に「人件費の価格転嫁が難しいため」が34.1%で入っていました。難しさの正体が「言い出しにくさ」なら、根拠の紙がそれをほどいてくれるはずです。
順番3 一人あたりの粗利を、毎月見る一つの数字にする
三つ目は、社内で見る数字を絞ることです。粗利益を平均人数で割った「一人あたり粗利」。この一つを毎月追いかけると、賃上げの余地が自分たちの言葉で見えてきます。
一人あたり粗利が月70万円の会社で、月給を1万円上げるとしましょう。社会保険料の会社負担を含めると、実際の負担は1万1,500円ほど。粗利の1.6%にあたる計算です。この比率が見えていれば、判断は勘から離れていく流れです。
計算の流れを、図で追ってみます。
平均人数で割る
実負担(社保込み) 約1万1,500円
売上高でも利益率でもなく、一人あたりで見る。人に配る話をしているのだから、分母を人にそろえる。それだけのことですが、会議の景色は変わってくるところです。
順番4 採用にかけていた費用を、定着に振り替える
四つ目は、お金の置き場所を移すことです。調査では、防衛的な賃上げの理由の2位が「人材の確保・採用」66.7%でした。採用のために上げているなら、採用にかかっている費用こそ原資の候補になります。
一人の中途採用に、求人広告費や紹介手数料で数十万円から百万円超がかかることは珍しくありません。その方が一年で辞めれば、費用はまるごと消えます。同じ額を在籍者の処遇に回したほうが確実に届く、という考え方もあります。
離職を減らす取り組みは、そのまま原資づくりでした。定着の考え方は中小企業の離職率についてまとめた記事でも触れています。
順番5 配り方を先に決めてから、総額を決める
最後は、順番そのものの話です。多くの会社が総額を決めてから配分に悩みます。逆にしてみると、景色が変わるところがありました。誰に、どういう理由で、いくら。先に基準を置いてから、総額を積み上げていきます。
一律配分は公平に見えて、成果を出した方には物足りなく映ります。かといって差をつけすぎれば、納得が崩れる。基準が言葉になっていれば、その間で説明が立つようになるはずです。
配分の基準づくりは、評価制度の話に重なります。この点は人事評価制度の作り方をご紹介した記事で詳しく書きました。制度が先ではなく、基準を言葉にすることが先です。
中小企業の現場は、数字の上では健闘しています
厳しい数字が続きましたが、集計データには別の一面もあります。2026年の春季生活闘争では、300人未満の中小組合のベースアップ率が3.51%。全体の3.50%をわずかに上回りました。
率で並んだ一方、金額では差が残ります。二つの調査を突き合わせて、その意味を確かめます。率で見れば、中小が全体を超えた年でした。
出典は日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」です。2026年7月1日時点の集計が、同月3日に公表されました。
300人未満の賃上げ分は3.51%で、全体の3.50%を上回りました
この集計データで賃上げ分が明確にわかる3,732組合の加重平均は、11,510円・3.50%でした。このうち300人未満の中小組合2,385組合は、9,840円・3.51%。額でも率でも、前年同時期を上回っています。
同じ集計で定期昇給を含めた全体では、5,368組合の加重平均が16,400円・5.01%。3年連続で5%台に届きました。300人未満は12,866円・4.69%で、こちらも額では前年を上回っています。
金額の差は、もとの賃金水準の差でもあるわけです。それでも率で並んだという事実は、現場が踏ん張った証だと受け止めているところです。
日商調査の賃上げ率は全体4.01%、20人以下は3.38%です
組合のない会社も含めた姿は、日商・東商の調査に表れます。同調査で2026年3月と4月の賃金を比べた賃上げ率を見てみます。全体で4.01%・11,366円、20人以下の小規模企業で3.38%・9,170円でした。
同調査で直近1年間の賃金改定率を見ると、全体4.29%・12,036円、小規模企業3.52%・9,573円。全体は前年から0.26ポイント伸びた一方、小規模企業は0.02ポイントの微減でした。
この調査で賃上げ率のレンジを見ると、5%以上を実施した企業は全体の25.9%。ところが地方の小規模企業では、2%未満の企業が5%以上の企業を上回っています。
差は0.63ポイント。ここを埋める話が、原資の話です
差の全体像を、図で確かめます。
※出典:賃上げ率・賃金改定率は日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」(2026年6月8日公表)、春闘は日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果」(2026年7月3日公表)。集計対象と算出方法が異なるため、指標をまたいだ直接比較はできません。
全体4.01%と小規模3.38%の間にある0.63ポイント。この差が、そのまま原資の差だと考えています。決断の差でも、経営者の熱意の差でもありません。
主な数字を並べて整理します。
| 指標 | 全体 | 中小・小規模 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 賃上げ率(3月→4月) | 4.01%(11,366円) | 3.38%(9,170円) | 日商・東商 賃上げ調査 |
| 直近1年の賃金改定率 | 4.29%(12,036円) | 3.52%(9,573円) | 同調査 |
| 定昇込み賃上げ(春闘) | 5.01%(16,400円) | 4.69%(12,866円) | 連合 春闘回答集計データ |
| 賃上げ分のみ(春闘) | 3.50%(11,510円) | 3.51%(9,840円) | 同調査 |
賃上げ分だけを比べれば、中小が全体を上回っています。にもかかわらず定昇込みで差がつくのは、賃金カーブや原資の厚みが違うためです。埋めるべきは決意ではなく、構造のほうでした。
湯島の朝には、数字を開いて話せる相手がいます
値決めや賃金の話は、社内では相談しづらいものです。私たち湯島倫理法人会のモーニングセミナーは、毎週月曜日の朝に同じ立場の経営者が顔を合わせるところから始まります。同業ではないからこそ、数字の話ができる場面がありました。
ここまで見てきた調査データは、あくまで全体の平均でした。自社に引き寄せて考えるには、同じ問いを持つ人と話す時間がいるように感じています。平均値の外側にある一社ごとの事情は、統計には出てこないためです。
開催の概要と、朝の様子をご紹介します。

毎週月曜日、朝6時30分の朝礼から一週間が始まります
湯島倫理法人会のモーニングセミナーは、毎週月曜日の開催です。朝6時30分から開会前の朝礼、7:00から8:00がセミナー本番。終了後は8時40分まで朝食会が続く流れです。
会場は東京都文京区湯島3-6-1の全国家電会館1階です。東京メトロ千代田線「湯島駅」から徒歩2分、JR「御徒町駅」から徒歩8分でお越しいただけます。
朝の早い時間だからこそ、その日一日がまるごと残ります。始業前に頭の整理が済んでいる月曜日は、一週間の進み方が違ってくるところです。
同じ悩みを持つ経営者同士だから、値決めの話ができます
賃上げや値決めの悩みは、社内では口にしにくいものです。社員に相談すれば不安を生み、同業に話せば手の内を明かすことになります。利害の重ならない経営者同士だからこそ、率直な話ができる場面がありました。
「うちも労務費を別紙に分けてみた」「あの取引先はこう説明したら通った」。そうした具体的な話が、朝食会の席から出てきます。教科書には載っていない、生きた情報です。
明朗(ほがらか)という言葉が、この会ではよく使われます。私たちはこれを、都合の悪い数字も含めて開いていられる姿勢のことだと受け止めています。数字を開けるかどうかは、そのまま経営の風通しにつながっていくのではないでしょうか。
朝の空気は、ゲスト参加で確かめていただけます
初めての方も、ゲストとしてお気軽にご参加いただけます。参加費は無料です。会員と同じように朝礼から加わり、朝食会でも席をご一緒します。
朝7:00は難しいという方には、湯島つながりラボという場もございます。毎週月曜日の9時30分から11時00分まで、U-cafe 上野御徒町で開いているカジュアルな交流の場です。ドリンク代のみでご参加いただけます。
私たち自身も、日々学びの途中にいます。答えを差し上げられるわけではありませんが、同じ問いを持つ方とご一緒できたら嬉しく存じます。皆様のゲスト参加を、心よりお待ちしております。
まとめ|賃上げは、決断よりも段取りの話でした
賃上げは、決意の量で決まるものではありませんでした。労務費を分けて示し、値決めの根拠を持ち、一人あたり粗利を毎月見て、採用費を定着に振り替え、配り方を先に決める。この五つの順番が、原資をつくっていきます。
背景にある事実も、あらためて振り返っておきたいところです。業績が改善しないまま賃上げをした会社は6割。労務費の価格転嫁率は50.0%。そして令和8年度の最低賃金の目安は、全国加重平均で1,176円です。
外から来る力は止められません。ただ、値段の作り方と配り方は自分たちで決められます。動かせるほうから手をつける。それが遠回りに見えて、いちばん確かな道でした。
来月の請求書から、いちばん小さく始められる一つ
五つを同時に始める必要はありません。もし一つだけ選ぶとしたら、順番1の「労務費を別の行に分ける」でしょうか。制度も予算も要らず、来月の請求書一枚から試せるためです。
一行を分けただけで話が通った、という声を私たちも耳にしてきました。もちろん、すぐには動かない相手もいらっしゃいます。それでも、話題にできる形にしておくことが出発点でした。
私たち編集部も、日々学びながら試行錯誤を重ねています。皆様の現場での工夫からも学ばせていただきながら、ご一緒に歩んでいけたら嬉しく存じます。
よくあるご質問
Q1. 赤字でも賃上げをしたほうがよいのでしょうか
一律の答えはないと考えていますが、周囲の状況は数字に出ています。日商・東商の調査によると、業績の改善が見られないまま賃上げをした「防衛的な賃上げ」は全体の60.9%でした。20人以下の小規模企業では66.3%にのぼります。多くの会社が同じ判断を迫られている状況です。無理に総額を決める前に、労務費を売価に載せられているかを先に確かめてみてはいかがでしょうか。
Q2. 賃上げの原資は、どこから手をつければよいでしょうか
いちばん動かしやすいのは、売価の中の労務費だと感じています。中小企業庁の調査では価格転嫁率が54.2%、労務費に限ると50.0%でした。半分は転嫁できていない計算です。取引先ごとに労務費の上昇分だけを別紙に分けて示すところから始めると、話が具体的になっていきます。
Q3. 最低賃金が上がると、自社にも影響がありますか
最低賃金の近くで働く方がいなくても、影響は及ぶことが多いようです。令和8年度の目安は全国加重平均で1,176円、引上げ額55円、東京都はAランクで54円の目安が示されました。下限が上がると、その上の等級との間隔が詰まります。等級ごとの間隔をどう保つかを、あらかじめ決めておくと慌てずに済みます。
Q4. 取引先に値上げを切り出すのが、どうしても怖いです
そのお気持ちは自然なものです。ただ中小企業庁の調査では、価格交渉そのものは90.7%で行われていました。切り出すこと自体は、すでに珍しくない状況です。値上げのお願いという形ではなく、労務費がいくら上がったかを数字で示してみる。そのほうが、お互いに話しやすくなるかと存じます。
Q5. 小さな会社では、大企業並みの賃上げは難しいのではないでしょうか
総額では差がありますが、率では健闘しています。連合の2026春季生活闘争の最終集計に、その手がかりがあります。賃上げ分が明確な組合のうち、300人未満の中小組合は3.51%。全体の3.50%をわずかに上回りました。日商調査の賃上げ率は全体4.01%、20人以下で3.38%と0.63ポイントの差です。この差を埋める話が、そのまま原資づくりの話になっていきます。
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