原材料が上がり、電気代が上がり、社員の給与も上げた。それなのに、取引先へ出している単価だけが去年のまま動いていない。決算書を前にそんな溜め息をつかれたことのある経営者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。私たち編集部の周りにも、湯島の朝で同じ話を口にされる方がいらっしゃいます。

先に答えをお伝えします。価格転嫁とは、コストの上昇分を取引価格に反映することです。そして中小企業庁の最新調査では、その転嫁率は全国平均で54.2%にとどまりました。上がった分の半分ほどしか、価格に乗せられていない計算です。ただ同じ調査には、交渉の約3分の2が受注側から切り出されていたという数字も並んでいました。待っている側が多数派ではなかったのです。

この記事では6つを順に見ていきます。価格転嫁の基本と全国の到達点、東京都の位置、交渉の切り出され方。そして切り出す前に整える5つの順序、断られたときの備え、湯島の朝の実際です。答えを差し上げるというより、判断の材料をご一緒に並べる回にできたら幸いです。

価格転嫁とは|コスト上昇分を取引価格に反映すること

価格転嫁とは、モノやサービスを提供する際に膨らんだコストを、その分だけ取引価格へ反映することです。中小企業庁は、これに先立って行われる価格交渉と価格転嫁を「クルマの両輪」と呼びます。片方だけでは前に進みません。

数字を前にすると気持ちが沈みます。ただ、現在地が分かると次の一手は決めやすくなるものです。

早朝の事務所机に並ぶ請求書と見積書と電卓が示す価格転嫁 中小企業の課題

まず結論——価格転嫁は「交渉」とセットで動くものです

価格転嫁という言葉だけを聞くと、値札を書き換える作業のように響きます。実際には、その手前に相手との話し合いが挟まります。中小企業庁も両者を切り離さず、二つで一組のものとして扱う姿勢です。

同庁は、価格の改定を4月と10月に行う企業が比較的多いことに着目しています。だからこそ、その前月にあたる3月と9月を「価格交渉促進月間」と定めました。全国的な調査も、この月間に合わせて実施されます。

つまり、値上げの相談を切り出す時期には、すでに世の中の目安が用意されているということです。突然お願いするより、あらかじめ決まっている節目に乗せるほうが、お互いに構えずに済みます。この点は後ほど5つの順序のところで、もう一度取り上げさせてください。

全国の価格転嫁率は54.2%|コスト上昇の半分ほどにとどまっています

同じ中小企業庁の調査によれば、コスト全体の価格転嫁率は54.2%でした。前回2025年9月時点の53.5%から、0.7ポイントの上昇です。

推移を追うと、動きの遅さが見えてきます。同調査での転嫁率は2022年3月に41.7%、2023年3月に47.6%、2025年3月に52.4%、そして今回が54.2%。4年かけて12.5ポイントの上昇でした。改善はしているものの、上がった分の半分近くを自社で飲み込んでいる構図は変わっていません。

分布のほうにも目を向けてみます。同じ調査で価格転嫁不要の回答を除いた集計では、全額を転嫁できた企業が27.2%、一部でも転嫁できた企業が84.0%。一方で全く転嫁できなかった、あるいは減額されたという企業が16.0%ありました。中小企業庁がこの状態に与えた言葉は「二極分離」です。

コスト要素で差があり、いちばん通りにくいのはエネルギー費でした

上がったコストなら何でも同じように通る、というわけではないようです。同調査のコスト要素別の転嫁率には、はっきりとした差が見て取れます。

コスト要素別の価格転嫁率(2026年3月時点)
上がったコストなら何でも同じように通るわけではありません。原材料費だけが全体の平均を上回り、エネルギー費が最も低い水準にとどまりました。
コスト要素 2026年3月 2025年9月 出典
コスト全体
(全国平均)
54.2%基準となる水準 53.5% 中小企業庁 価格交渉促進月間フォローアップ調査
原材料費 55.7%全体平均を1.5pt上回る 55.0% 同上
労務費 50.0%前回から横ばい 50.0% 同上
エネルギー費 48.9%3要素で最も低い水準 48.9% 同上
人件費と電気代の上昇は自社の内側で起きた出来事として扱われがちで、相手に示せる資料が用意しにくい面があります。原材料費だけが通りやすいのは、仕入先からの通知書という形が残るためだと考えられます。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表

原材料費は55.7%、労務費は50.0%、エネルギー費は48.9%。同じ調査の数字です。原材料費だけが全体の54.2%を上回り、エネルギー費が最も低い水準です。

なぜ差が出るのか。原材料の値上がりは、仕入先からの通知書という形で目に見えます。相手に示せる紙があるということです。ところが人件費や電気代の上昇は、自社の内側で起きた出来事として扱われがちでした。同じコスト増でも、根拠として差し出しやすいかどうかが違うのです。

労務費については、同調査で少し明るい動きも読み取れます。価格交渉が行われた企業のうち、72.5%で労務費についても交渉が行われています。賃上げの原資を取引価格に求める動きが、確かに広がってきているようです。

東京都の転嫁率は52.6%|全国平均を下回り、順位も28位でした

全国平均だけを見ていると、自社の実感とずれることがあります。中小企業庁の同じ調査を都道府県別に開いてみました。全国54.2%に対し、東京都は52.6%。47都道府県のうち28位という位置です。

意外に思われるのではないでしょうか。人も情報も集まる大都市のほうが、価格の話は通りやすいはずだと考えていた時期が私たちにもありました。実際の数字は、その見立てを静かに裏切ってくれます。

ここは景気の良し悪しを語る話ではありません。自社がいまどのあたりに立っているのかを測る、物差しとしてご覧いただけたらと存じます。順位、地域差、そして取引階層の3つを順に取り上げます。

受注企業の所在地で見ると東京都は47都道府県中28位

同調査の都道府県別ランキング、受注企業の所在地ごとの集計では、東京都の転嫁率は52.6%で28位でした。回答件数は5,939件。前回の55.2%から下がっており、矢印は下向きです。

上位を見ると、同じ集計で1位は秋田県の60.4%、2位は北海道の60.0%、3位は島根県の58.5%。いずれも東京都より6ポイント以上高い水準でした。大都市圏だから通りやすい、という単純な話ではないことが読み取れます。

私たちが日々お会いしている経営者の多くは、まさにこの東京都の数字の中にいます。自社だけが通せていないのではなく、この地域全体が全国平均を下回っている。そう捉えると、少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。同時に、東京で商いをしているからこそ意識的に動く必要もありそうです。

上位と下位で20%以上の開き|地域だけでは説明がつきません

中小企業庁は同調査の中で、上位の都道府県と下位の都道府県との間に20%以上の差が生じていると指摘しました。20ポイントという幅は、業績に直結する大きさです。

ただし、この差をそのまま地域性のせいにはできません。都道府県別のランキングは、その地域にどの業種の企業が集まっているかにも左右されるためです。同調査の業種別ランキングでは、転嫁率1位の化学が65.7%だったのに対し、下位にはトラック運送業や廃棄物処理業が並びます。

自社の置かれた環境を知ることと、環境のせいにすることは別ものです。人が定着する会社であることも、交渉の場では小さくない材料になります。中小企業の離職率を規模別データで確かめるという記事もございます。自社の現在地を数字で掴む手順を、そちらでもご一緒に見ました。

取引階層が深くなるほど下がる|4次請け以上は45.5%

もうひとつ、地域より説明力の高い要因が同調査から浮かびます。サプライチェーンの何段目にいるか、という位置です。

サプライチェーンの取引階層別 価格転嫁率(2026年3月時点)
全体平均は54.2%。取引階層が一段深くなるごとに、転嫁率は着実に下がっていきます。カッコ内は前回2025年9月時点の数値です。
1次請け 55.2%
全体平均54.2%を1.0ポイント上回る(前回54.7%)
2次請け 54.2%
全体平均とほぼ同水準(前回52.5%)
3次請け 50.2%
全体平均を4.0ポイント下回る(前回48.3%)
4次請け以上 45.5%
全体平均を8.7ポイント下回る(前回42.1%)
4次請け以上では「全く転嫁できなかった」または「減額された」企業が24.3%。4社に1社の割合です。一方で、1次請けとの差は前回より縮小しました。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表(回答76,339件)

同じ調査の集計(回答76,339件)を見ます。1次請けが55.2%、2次請けが54.2%、3次請けが50.2%、4次請け以上が45.5%。階層が一段深くなるごとに、転嫁率が着実に落ちていきます。

とりわけ4次請け以上では、全く転嫁できなかった、または減額されたという企業が24.3%にのぼりました。4社に1社の割合です。ここは個社の交渉力だけでは動かしにくい領域だと感じています。

ひとつ、救いのある動きも見えます。同調査によれば、1次請けと4次請け以上との差は前回より縮まりつつあるようです。時間はかかるものの、流れ自体は下へ向かって届きはじめているようです。

交渉の約3分の2は、受注側から切り出されていました

言い出しにくい。その気持ちを、私たちもよく分かります。関係が壊れるのではないか、次から声がかからなくなるのではないか。その恐れは決して大げさなものではありません。長く続いた取引ほど、切り出す重さは増していきます。

ただ同じ調査の内訳を開いていくと、少しだけ勇気の出る数字が並んでいるのです。交渉が成立した案件のうち、発注側から申し入れがあったのは31.5%。受注側から申し出たものが59.2%を占めました。待っている方が多数派なのではなく、自分から動いている方のほうが実は多かったのです。

この章では、切り出され方の内訳と、それでも動けずにいる約1割の中身をご一緒に見ていきます。

発注側からの申し入れは31.5%、受注側からの申し出は59.2%

中小企業庁の同調査で、価格交渉不要の回答を除いた分布(回答65,311件)を見てみます。発注企業から申し入れがあって交渉が行われたのは31.5%。これに対し、受注企業のほうから申し出て交渉が行われたのは59.2%でした。

交渉が成立した案件の約3分の2は、値上げをお願いする側が口火を切っていた計算です。しかも前回2025年9月時点と比べると、発注側からの申し入れは34.6%から減りました。受注側からの申し出は、54.8%から増えています。

価格交渉は、どちらから切り出されているのか(2026年3月時点)
「価格転嫁不要」の回答を除いた分布です。交渉が成立した案件の約3分の2は、値上げをお願いする側が口火を切っていました。
受注側から申し出て
交渉が行われた
59.2% 前回2025年9月 54.8% ↑
発注側から申し入れがあり
交渉が行われた
31.5% 前回2025年9月 34.6% ↓
価格交渉が
行われなかった
9.3% 前回2025年9月 10.6% ↓
交渉が行われた割合は合計90.7%。待っている側が多数派ではなく、自分から動いている側のほうが多いという結果でした。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表(回答65,311件)

先を歩く経営者ほど、自ら価格の話を持ち出しているということです。値決めは会社の利益を決める行為であり、他の誰かに任せられる仕事ではありません。この点を掘り下げたのが値決めをはじめ社長にしかできない役割という記事です。

交渉が行われた割合は90.7%まで来ています

同調査で「価格交渉が行われた」割合は、全体で90.7%でした。前回の89.4%から微増し、9割を超えています。

数年前であれば、値上げの相談を持ちかけること自体が例外的な行為でした。いまは9割の取引で、何らかの形の話し合いが持たれる時代です。交渉の場に着くこと自体は、もはや特別な出来事ではないのです。

この変化の背景には、国の後押しがあります。同調査は2021年9月に始まった価格交渉促進月間の10回目にあたり、結果は業種別・都道府県別に公表されています。中小企業庁は2026年8月上中旬に、発注者ごとの評価を記載した「発注者リスト」を公表する予定とも案内しました。取引先の側にも、名前が公になるという緊張感が及びます。

それでも約1割は、恐れから切り出せないままでした

明るい数字ばかりを並べるのは、誠実ではないと考えています。同調査で「価格交渉が行われなかった」割合は9.3%。目を留めたいのは、その中身のほうです。

内訳はこうです。同じ集計で、コストが上昇したのに発注減少や取引停止を恐れて自分から申し出なかった企業が6.9%。発注側から申し入れがあったのに恐れて辞退した企業が0.3%。申し出たものの応じてもらえなかった企業が2.1%でした。

恐れて言えなかった、という企業が7%を超えて存在します。この7%の中に自社が入っているかどうかは、経営者ご自身がいちばんよくご存知のはずです。私たち編集部も、かつて同じ場所で立ちすくんでいた一人です。責める話ではなく、まずは認めるところから始まるのだろうと受け止めています。

値上げを切り出すまでに整えたい5つの順序

ここからは、実際にどう進めるかという話です。内閣官房と公正取引委員会の労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針には、受注する側が採るべき行動が4つ挙げられていました。相談窓口の活用、根拠とする資料、要請のタイミング、そして希望額を自ら提示すること。

私たちはそこに「自社の数字を掴む」という前段を足しました。5つの順序として並べ直したものが、以下の流れです。順番に意味があると感じています。交渉術を磨く前に、手元を整えるほうが先だという並びにしました。

よろしければ、ご自身の状況に当てはめながら読んでいただけたら幸いです。すべてを一度に揃える必要はありません。

値上げを切り出すまでに整えたい5つの順序
ステップ2から5は、内閣官房と公正取引委員会の指針が「受注者として採るべき行動」として挙げているものです。ステップ1は、そこに私たちが前段として足しました。
STEP 1
コストを分けて掴む 何がいくら上がったのかを、原材料費・労務費・エネルギー費に分けて算出しておきます。 自社の準備
STEP 2
根拠を公表資料に寄せる 最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額など、公にされている数字を根拠に使います。 指針の行動 2
STEP 3
相談窓口を先に使う 国や自治体の窓口、全国の商工会議所・商工会などに相談し、情報を集めてから臨みます。 指針の行動 1
STEP 4
希望額を先に提示する 相手の提示を待たず、自社から希望価格を出します。自社の発注先の労務費も考慮します。 指針の行動 4
STEP 5
時期を選び記録に残す 3月と9月など定期的な機会に切り出し、交渉記録は発注者と受注者の双方で保管します。 指針の行動 3・双方
交渉術を磨く前に、手元を整えるほうが先。すべてを一度に揃える必要はありません。
出典:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」令和5年11月29日策定・令和7年12月26日改正

順序1|どのコストがいくら上がったのかを分けて掴む

最初にしておきたいのは、自社の内側の作業です。何がいくら上がったのかを、原材料費・労務費・エネルギー費に分けて出しておきます。

分ける理由は、通りやすさが違うからです。先ほど見たとおり、同じ調査での転嫁率は原材料費55.7%に対しエネルギー費48.9%。ひとまとめに「コストが上がった」と伝えるより、通りやすい項目から順に並べるほうが話が進みます。

ここでつまずく会社が多いのも事実です。月次の数字が締まっておらず、いくら上がったのかを即答できない。私たちの周りでも、そこから着手された方が何人もおられます。数字を行動に落とし込む手順は、経営計画で自社の数字を行動に落とし込む手順という記事にまとめました。必要でしたらご参照ください。

順序2|根拠は公表資料に寄せる|最低賃金の上昇率など

労務費指針が受注者の行動として挙げているのは、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額といった公表資料を根拠に使うことでした。自社の原価表を持ち出す前に、まず公の数字に寄せるという考え方です。

自社の内部資料だけで説明しようとすると、細かい開示を求められて話が止まりやすくなります。取引先にとっても、根拠が公表資料であれば社内の稟議を通しやすい。お互いにとって扱いやすい材料だということです。

同じ指針が発注者側の行動として掲げるのは、心強い一文です。説明や資料を求める場合は、公表資料に基づくものとすること。そして受注者が公表資料を用いて提示した希望価格は、合理的な根拠のあるものとして尊重すること。これが国の示した目安です。

順序3|相談窓口を先に使う|商工会議所や国の窓口という選択肢

労務費指針が受注者の行動の一つ目に置いていたのは、意外にも交渉術ではありませんでした。相談窓口の活用です。

具体的には、国や地方公共団体の相談窓口、全国の商工会議所・商工会といった中小企業の支援機関が挙げられています。積極的に情報を集めてから交渉に臨むこと、という趣旨でした。

一人で抱えたまま相手の前に立つのは、やはり心細いものです。同じ指針をめぐる公正取引委員会の特別調査では、指針の認知度は約60%でした。そして指針を知っている事業者のほうが、労務費の上昇を理由とした価格引上げが実現しやすい傾向にあると報告されています。知っているかどうかが、結果に効いているようです。

順序4|待たずに、自社が希望する額を先に提示する

指針の中で、私たちがいちばん背中を押されたのがこの項目です。発注者から価格を提示されるのを待たず、受注者の側からも希望する価格を提示することと書かれていました。

先に数字を出すのは、勇気の要る行為です。高すぎたら失礼にあたるのではないか、と迷う気持ちも分かります。それでも、相手の提示を待つ姿勢では自社の事情が数字になりません。

同じ指針は、提示額を決める際の視点も添えてくれます。自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。自分の会社だけを見て額を決めない、という発想です。ここには、取引の連なり全体で支え合うという考え方が流れているように感じます。

順序5|切り出す時期を選び、やり取りを記録に残す

同じ指針は、切り出すタイミングについても具体的でした。業界の慣行に応じた1年に1回や半年に1回といった定期的な交渉の機会。自社が申し出やすい時期。そして発注者の繁忙期など、自社の交渉力が比較的優位な時期。こうした機会を活用すること。

前半でふれたとおり、価格改定は4月と10月に行う企業が比較的多いと中小企業庁は説明しています。逆算すると、3月と9月が相談を持ちかける自然な時期です。

そしてもうひとつ、発注者と受注者の双方が採るべき行動として挙げられていたのが交渉記録の作成と、双方での保管でした。話した内容を残しておく。地味ですが、次の半年に効いてきます。

断られたときに、次へつなぐために残しておきたいこと

一度で満額が通ることは、おそらく多くありません。中小企業庁の同調査でも、価格交渉が行われたのに全額の転嫁には至らなかった企業が全体の41.3%を占めていました。4割を超える会社が、一度は途中で止まっている計算です。

断られると、つい交渉そのものをなかったことにしたくなります。私たちにも覚えのある反応です。ところが、その場で何を聞けたかによって、次の半年の景色は変わってくるようでした。

うまくいかなかったときにどう受け止めるかまで含めて考えておく。ここは私たち自身への戒めも込めて書かせてください。

説明がなかった、納得できなかったという声が約4割

同調査は、全額転嫁に至らなかった企業に対し、発注側からどんな説明があったのかを尋ねていました。結果はこうです。

納得できる説明があったと答えたのは63.8%。一方で、説明はあったが納得できる内容ではなかったが12.4%、説明はなかったが23.9%。後者ふたつを合わせると36.3%。約4割が説明の面で不足を感じていたという結果です。

全額転嫁に至らなかった企業が、発注側から受けた説明(2026年3月時点)
価格交渉は行われたものの、コスト上昇分の全額の転嫁には至らなかった企業に対する調査結果です。
この層は全体の 41.3%
発注側企業から納得できる説明があった 63.8%
説明はあったが、納得できる内容ではなかった 12.4%
発注側企業から説明はなかった 23.9%
説明に不足を感じた企業は、下2つを合わせて36.3%。通らなかった事実そのものより、なぜ通らなかったのかを聞けたかどうかが次につながります。
出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表(回答37,634件)

ここで大切なのは、通らなかった事実そのものより、なぜ通らなかったのかを聞けたかどうかだと考えています。理由が分かれば次の準備ができます。分からないままだと、半年後も同じ場所へ逆戻りです。長く続く取引ほど、こうした説明の積み重ねが信頼を形づくっていくのではないでしょうか。取引先との向き合い方については、取引先との信頼を守り続けるための実践という記事もご用意しています。

2026年1月からの新しい法律で「協議に応じない一方的な決定」が禁止に

制度の側も動いてきたところです。2025年5月の下請法改正により、法律の名称が中小受託取引適正化法(取適法)へと変わりました。2026年1月から施行されている状態です。

この改正で新たに禁止されたのが、協議に応じない一方的な代金決定です。公正取引委員会と内閣官房は、労務費指針の改正にあたってこう明記しました。受注者から協議の要請があったのにこれに応じず、一方的に価格を据え置くこと。それはこの禁止行為に該当する、と。

同じ指針の、発注者として採るべき行動の中にはこんな一文も並びます。「労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと」。切り出す側を守る方向へ、制度は少しずつ整えられてきました。

半年後にもう一度|3月と9月という節目の使い方

一度断られたら終わり、ではありません。中小企業庁が3月と9月を価格交渉促進月間と定めているのは、半年ごとに機会が巡ってくるという設計でもあります。

そのときに効くのが、順序5でふれた交渉記録です。前回いくらお願いして、いくらまで通り、何が理由で残りが通らなかったのか。記録があれば、次は差分だけを議題にできます。ゼロからの説明を毎回繰り返さずに済むということです。

価格交渉のあとに残しておきたい記録の5項目
交渉記録の作成と、発注者と受注者の双方での保管は、労務費指針が「双方が採るべき行動」として挙げているものです。記録があれば、次は差分だけを議題にできます。
交渉した日付と、相手の役職名 担当者が代わっても引き継げるよう、いつ誰と話したのかを残します。
提示した希望額と、その算出根拠 使った公表資料の名称と数値も一緒に控えておくと、次回そのまま更新できます。
実際に決まった金額と、転嫁できた割合 全国平均54.2%という物差しと並べると、自社の位置が見えてきます。
通らなかった分について、相手から受けた説明の内容 説明がなかった場合は「なかった」と記録します。次回に求める材料になります。
次回の交渉時期についての合意 3月と9月という節目を、その場で次の約束に変えておきます。
半年に一度の見直しを続けている会社と、上がったまま黙っている会社。3年後の利益率は、静かに開いていきます。
出典:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和7年12月26日改正)/中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」2026年6月26日公表

半年に一度の見直しを続けている会社と、上がったまま黙っている会社。3年後の利益率は、静かに開いていくはずです。

湯島の朝で、私たちが実際に話していること

数字と手順を並べてきましたが、いちばん難しいのは「それでも言い出す」という一歩です。私たち編集部も、その一歩を自分だけの力で踏み出せた記憶がありません。資料は揃っているのに、電話をかける手が止まる。

流れが変わったのは、同じ立場の方が同じことで悩み、それでも切り出したという話を聞いたときです。理屈ではなく、人の顔と声のほうが効きました。結果として、それが背中を押してくれたのだと感じています。

湯島倫理法人会の朝がどんな時間なのかを、最後に少しだけご紹介させてください。

月曜の朝7時|同じ悩みを持つ経営者が集まる1時間

湯島倫理法人会のモーニングセミナーは、毎週月曜日の7時00分から8時00分まで開いています。会場は東京都文京区湯島3-6-1の全国家電会館1階。東京メトロ千代田線の湯島駅から徒歩2分、JR御徒町駅からは徒歩8分の場所です。

当日の流れをご案内します。6時30分から開会前の朝礼があり、7時00分に開会と会歌斉唱。7時10分に会長挨拶、7時15分に会員スピーチと続き、7時20分からがその日の講話です。8時00分に終了します。

講話に立たれるのは、私たちと同じように会社を営んでいる方々です。値上げを切り出せなかった時期の話も、そこで初めて言葉になることがあります。うまくいった話ばかりが並ぶ場ではありません。

朝食会とつなラボ|言いにくい話ができる場として

セミナーが終わったあとは、8時40分まで朝食会の時間です。自由参加のため、お仕事の都合で先に出られる方もいらっしゃいます。

価格の相談を切り出せずにいる、といった話が出てくるのは、たいていこの朝食会のほうでした。人前のスピーチでは言いにくいことも、隣の席でなら口に出せる。朝の挨拶ひとつを明朗(ほがらか)に交わすところから、そうした空気が生まれているように感じています。

価格転嫁 中小企業 朝の会議室に並ぶ和定食とお茶の落ち着いた空間

朝7時は難しいという方には、もうひとつ扉があります。同じ月曜の9時30分から11時00分まで開いている湯島つながりラボです。会場はU-cafe上野御徒町で、参加費はドリンク代の約500円のみ。事前予約は不要で、非会員の初参加も歓迎いたします。

ゲスト参加は無料です|まずは一度、朝の空気に

モーニングセミナーの参加費は無料です。会員でない方も、ゲストとしてそのままご参加いただけます。服装の決まりは設けていませんので、お仕事に向かわれる格好のままで大丈夫です。

必要なものは名刺だけ。手ぶらに近い形でお越しいただけます。1週間の始まりに、同じ立場の方の話を1時間だけ聴いてみる。それだけの時間です。

価格の話を切り出す勇気は、資料や理屈だけでは湧いてこないものです。私たちの場合は、同じことで悩んだ人の顔が浮かんだときに動けました。皆様のゲスト参加を、心よりお待ちしております

この記事のまとめ|価格転嫁で押さえておきたいこと

最後に、ご一緒に見てきた内容を短く振り返らせてください。判断の材料として持ち帰っていただけたら幸いです。

数字で見た現在地の振り返り

中小企業の価格転嫁率は全国平均で54.2%、東京都は52.6%で28位でした。中小企業庁『価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果』(2026年6月26日公表)の数字です。上がったコストの半分近くを、いまも自社で抱えている構図です。取引階層が深いほど転嫁率は下がり、4次請け以上では45.5%まで落ち込みます。

5つの順序の振り返り

一方で、同じ調査では交渉が成立した案件の59.2%が受注側からの申し出によるものでした。待っている側が多数派ではありません。切り出す前に整えたいのは5つ。コストを分けて掴み、根拠を公表資料に寄せ、相談窓口を先に使い、希望額を自分から提示し、時期を選んで記録に残す。後半の4つは、内閣官房と公正取引委員会の労務費指針が受注者の行動として挙げているものです。

断られたときは、理由を聞いて記録に残す。3月と9月という節目が、半年ごとに巡ってきます。2026年1月に施行された中小受託取引適正化法では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました。制度の側は、切り出す側を守る方向へ動いています。

そして、その一歩を後押しするのは案外、同じ立場の人の言葉なのだろうと感じています。湯島倫理法人会の朝は毎週月曜7時から。ゲスト参加は無料です。ご一緒に学んでいけたら嬉しく思います。

よくあるご質問

価格転嫁を切り出したら、取引を切られてしまわないでしょうか。

その不安を持たれるのは自然なことです。中小企業庁の2026年3月時点の調査を見ます。コストが上昇したのに、発注減少や取引停止を恐れて交渉を申し出なかった企業が6.9%ありました。

一方で、内閣官房と公正取引委員会の労務費指針にはこんな一文が置かれました。発注者として採るべき行動として、「労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと」。さらに2026年1月に施行された中小受託取引適正化法では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました。切り出す側を守る方向へ、制度は着実に動いてきた形です。

何を根拠に値上げをお願いすればよいのでしょうか。

同じ労務費指針が受注者の根拠資料として挙げるのは、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額・その上昇率といった公表資料です。

自社の内部資料だけで説明しようとすると、細かい原価の開示を求められて話が止まりやすくなります。同じ指針は、発注者側の行動としても踏み込みました。受注者が公表資料を用いて希望価格を提示した場合、それを合理的な根拠のあるものとして尊重すること、と。公の数字に寄せておくと、お互いに話しやすくなります。

いつ切り出すのがよいタイミングなのでしょうか。

中小企業庁によれば、価格の改定を4月と10月に行う企業が比較的多いとのこと。だからこそ、その前月にあたる3月と9月が「価格交渉促進月間」です。

労務費指針が挙げるのも、同じ発想です。1年に1回や半年に1回といった定期的な価格交渉の機会。自社が申し出やすい時期。発注者の繁忙期など、自社の交渉力が比較的優位な時期。こうした機会の活用が示されました。突然お願いするより、あらかじめ決まっている節目に合わせるほうが、お互いに構えずに済みます。

うちは全額は通りませんでした。これは失敗なのでしょうか。

そう感じられるお気持ちは分かりますが、数字を見る限りそうとも言い切れません。中小企業庁の同調査では、全額転嫁できた企業が27.2%、一部でも転嫁できた企業を含めると84.0%でした。多くの会社が、満額ではないところで折り合いをつけながら進んでいます。

大切なのは、今回どこまで通り、何が理由で残りが通らなかったのかを記録に残しておくことです。労務費指針でも、交渉記録を作成して発注者と受注者の双方で保管することが、双方の行動に挙がっているのです。

こうした話を、誰かに相談できる場はあるのでしょうか。

労務費指針が受注者の行動の一つ目に置いているのが、まさに相談窓口の活用です。国や地方公共団体の相談窓口、全国の商工会議所・商工会といった中小企業の支援機関が並びます。

加えて、同じ立場の経営者と話せる場を持っておくことも助けになるはずです。湯島倫理法人会では毎週月曜の朝7時00分からモーニングセミナーを開いております。参加費は無料で、ゲスト参加を歓迎しております。朝7時は難しいという方には、同じ月曜の9時30分から開いている湯島つながりラボという場もございます。お気軽にお越しください。

倫理経営を朝から学ぶ、湯島の経営者コミュニティへ

湯島倫理法人会は文京区湯島3-6-1 全国家電会館1階で、毎週月曜日 朝7:00からモーニングセミナーを開催しています。初めての方もゲスト参加(無料)でお越しいただけます。朝が難しい方は9:30から始まる「湯島つながりラボ」も別会場でお待ちしています。

関連記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
  • 特集記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP