「倫理経営」という言葉を経営の本や勉強会で見かけて、意味をきちんと確かめたくなり、この記事にたどり着かれた方も多いのではないでしょうか。日々の判断に一人で向き合う経営者にとって、立ち返れる軸があるかどうかは、大きな支えとなるでしょう。

先に、一言でお伝えします。倫理経営とは、時代が変わっても揺るがない原理原則(=倫理)を判断の軸に置く経営のことです。特別に難しい理論ではありません。うそをつかない、約束を守る、感謝を忘れない——そんな当たり前を、会社の意思決定の場面でも大切にする姿勢です。

本記事では、コンプライアンスとの違い、なぜ今あらためて必要とされるのか、もたらす3つの変化、今日から小さく始めるヒント、そして学び合える場までを、順にお伝えします。私たち編集部も学びの途上にいる一人です。ご一緒に考える気持ちで綴りました。

Contents

倫理経営とは?まず一言で——原理原則に立った経営のこと

倫理経営とは、時代や環境が変わっても揺るがない原理原則を、日々の経営判断の拠りどころにする経営姿勢を指します。「経営」の「経」の字には、変わらない筋道・原則という意味合いがあります。その原則の上に判断を置くのが、倫理経営の骨格です。

とはいえ、言葉の定義だけでは実感がわきにくいものです。同じ「倫理経営」でも、経営者によって捉え方が少しずつ異なるのも実際のところでしょう。まずは「倫理」という言葉のハードルを下げるところから、ご一緒に見ていきましょう。

倫理経営の「倫理」は、特別に難しいことではない

倫理経営の「倫理」と聞くと、哲学書のような近寄りがたさを感じる方もいらっしゃるかと思います。けれど中身は、幼い頃に家庭や学校で教わった「人として当たり前のこと」に近いものです。約束を守る、うそをつかない、困っている人に手を貸す。その延長線上にあるのが、倫理経営です。

たとえば、納期に間に合わない見通しが立ったとき。都合の悪い事実を隠さず、早めにお客様へ正直に伝える。これも立派な倫理経営の一場面です。難しい概念を覚える前に、足元の一つひとつの判断に誠実さを通すこと。そこに本質が宿ります。

倫理経営とはを体現するような整然とした朝のオフィス

私自身、これまで多くの経営者の方とお会いしてきて、長く信頼される会社ほど、こうした地味な誠実さを大切にされていると感じてきました。派手さはなくとも、じわりと効いてくる。倫理経営とは、そういう性質のものではないでしょうか。

法令遵守(コンプライアンス)とは、少し違う

倫理経営とよく似た言葉に、コンプライアンス(法令遵守)が挙げられます。コンプライアンスとは、法律や社内ルールを破らないように守る取り組みのことです。両者は重なりますが、まったく同じではありません。

違いを一言でいえば、コンプライアンスが「守りの線引き」、倫理経営が「自ら選ぶ望ましさ」という点です。法律に「してはいけない」と書かれていなくても、人として、会社として、どうあることが望ましいかを自ら考えて選ぶ。そこまで踏み込むのが倫理経営です。

ルールブックには、あらゆる場面の正解が載っているわけではありません。前例のない判断を迫られたとき、最後に頼れるのは自分の中の軸です。その軸を日ごろから耕しておく営みが、倫理経営だと言えるでしょう。

なぜ今、倫理経営が中小企業の経営者に必要とされるのか

倫理経営が今あらためて注目される理由は、変化が速く先の読みにくい時代だからこそ、目先の損得だけでは判断しきれない場面が増えているためです。ぶれない軸を持つ会社が、結果として長く選ばれているようです。その背景を3つの角度から整理します。

倫理経営が今、必要とされる3つの理由

目先だけでは判断しきれない時代に、ぶれない軸を持つ会社が選ばれています

1

長く続く信頼を選べる

短期の損得より、長い目で会社を支える信頼を判断の物差しにできます。

2

まわりとの関係が変わる

経営者の姿勢が伝わり、社員・お客様・取引先との関係が静かに育ちます。

3

ぶれない軸になる

答えの見えない場面でも、立ち返れる判断の拠りどころになります。

短期の損得より、長く続く信頼を選べる

一度の取引で得をしても、信頼を損なえば次はありません。逆に、目先では損に見える誠実な対応が、長い目で見て会社を支える資産になることがあります。倫理経営は、この「長く続く信頼」を判断の物差しに据える考え方です。

たとえば、ミスをごまかせばその場はしのげても、後で発覚したときの信用の失墜は計り知れません。最初に正直に謝り、誠実に対応した会社のほうが、結果としてお客様と長く付き合えている。そんな場面を、私たちも数多く見聞きしてきました。

短期の数字は大切です。同時に、数字に表れにくい信頼という土台も、会社の寿命を静かに左右します。そのバランスを意識できることが、倫理経営の一つの効用ではないでしょうか。

社員・お客様・取引先との関係が変わっていく

経営者が原理原則に立って振る舞うと、その姿勢はまわりへ静かに伝わっていくはずです。とりわけ社員は、経営者の言葉より行動をよく見ているものです。「自分が変われば周囲が変わる」という捉え方は、倫理経営の根っこにある実感です。

朝のあいさつひとつをとっても、経営者が明朗(ほがらか)に声をかけ続ければ、職場の空気は少しずつやわらいでいくでしょう。あいさつが返ってくる職場と、そうでない職場では、日々の働き心地がずいぶん違ってくるものです。

こうした変化は、制度をいじるより先に、経営者自身のふるまいから始まるのです。人の心は号令では動きません。けれど、率先する背中には、自然と人がついてくる。その順番を大切にしたいところです。

判断に迷ったときの「ぶれない軸」になる

経営は、答えの見えない選択の連続です。数字だけでは決めきれない場面で、最後にものを言うのが判断の軸です。倫理経営は、その軸を日ごろから育てておく営みでもあります。

軸があると、迷いの時間は短くて済みます。「自分たちは何を大切にする会社か」がはっきりしていれば、選択肢を絞り込みやすくなるためです。逆に軸が曖昧だと、その場の空気や声の大きい意見に流されがちです。

もちろん、軸があっても迷いは消えません。私たちも、日々ぐらつきながら判断しています。それでも、立ち返る場所があるのとないのとでは、心の落ち着きがまるで違う。そんな実感があります。

倫理を軸にした経営は、目先重視の経営と何が違うのか

倫理を軸にした経営と、目先の損得を優先する経営とでは、同じ場面でも判断の拠りどころが変わります。どちらが正しいと断じるためではなく、軸の置き方でものの見え方がどう変わるのかを、観点ごとに並べてみます。

同じ状況に立たされたとき、拠りどころの違いが具体的にどう表れるのか。代表的な5つの観点で見比べられるよう、一覧にまとめました。

目先重視の経営と、倫理を軸にした経営——判断の拠りどころの違い
観点目先の損得を優先する経営倫理を軸にした経営
判断の物差し今回いくら得か・損か長く続く信頼にかなうか
不都合な事実できれば伏せておきたい早めに正直に伝える
社員への向き合い号令とルールで動かす経営者が率先して背中で示す
取引先との関係一度きりの取引で最大化お互いの繁栄を願う関係
迷ったときの拠り所その場の空気・声の大きさ「何を大切にする会社か」の軸

観点ごとに見比べる、判断の拠りどころの違い

一覧を眺めると、両者は正反対というより、時間軸の長さと視野の広さが違うことが見えてくるでしょう。目先重視は「今・自分」に焦点があり、倫理を軸にした経営は「これから・関わる人みんな」まで視野を広げています。

どちらの発想も、経営には必要です。目先の資金繰りを軽んじては会社が続きません。ただ、目先だけに視野が縮むと、大切な信頼を削ってしまう判断に気づけなくなります。両方を持ちながら、長い軸を忘れないでいたいものです。

倫理法人会の会員心得にも、「約束を守り、信頼の輪をひろげます」「人を愛して争わず、互いの繁栄をねがいます」という一節があります。難しい理屈ではなく、こうした素朴な言葉の実践こそが、倫理経営の土台へとつながっていくはずです。

「徳」と「業績」は、対立しないという考え方

「倫理を大切にすると、もうけを二の次にするのでは」と心配される方もいらっしゃるでしょう。けれど倫理経営は、徳を積むことと業績を伸ばすことは対立しない、むしろ長い目では重なり合う、という発想に立つ考え方です。

誠実な対応で信頼を得た会社に、次の仕事や良いご縁が集まってくる。無理な安売りをやめ、価値に見合う値づけができるようになる。倫理を軸にすることが、めぐりめぐって健全な繁栄につながっていく。そんな道筋を大切にしたいところです。

経営理念そのものをどう言葉にし、どう浸透させるかに関心のある方は、経営理念とは|中小企業の組織を強くする言語化と浸透の作法もあわせてご覧いただけたらと思います。倫理経営と地続きのテーマとして、参考にしていただけるはずです。

中小企業が倫理経営を「小さく」始める4つのヒント

倫理経営は、立派な理念体系や制度を整えてから始めるものではありません。むしろ足元の小さな一歩から始められます。今日からご自身のペースで試せることを、4つに絞ってお伝えします。

倫理経営を「小さく」始める4ステップ

1

足元を整える

時間を守る・機嫌を安定させる。まずは経営者自身から。

2

約束とあいさつ

小さな約束を守り、返事を気にせずまず自分からあいさつを。

3

理念を自分の言葉に

不格好でも、自分の腹から出た言葉で書き出してみる。

4

学び合う場を持つ

同じ志の経営者と、続けられる学びの場を一つ持つ。

まずは経営者自身の足元から整える

倫理経営の第一歩は、社員に何かを求める前に、経営者自身が足元を整えることから始まると言えます。時間を守る、身のまわりを整える、機嫌を安定させる。地味なようでいて、これが最も影響力のある実践です。

なぜなら、社員は経営者の言葉より態度をよく見ているからです。「あいさつをしよう」と号令をかける経営者自身が仏頂面では、言葉は宙に浮きます。まず自分から、を合言葉にしてみてはいかがでしょうか。

私たちも、頭で分かっていながらできていない日が正直あります。それでも、朝いちばんに自分から明るく声をかける。その小さな一歩を積み重ねるところに、倫理経営の入口があるようです。

約束を守る・あいさつを大切にする

次に取り組みやすいのが、約束を守ることと、あいさつを大切にすることです。当たり前すぎて拍子抜けするほどですが、この二つを徹底できている会社は、思いのほか多くありません。

小さな約束ほど、つい後回しにしがちです。「折り返し電話します」を守る。「明日までに」を守る。その積み重ねが、社内外の信頼を静かに厚くしてくれるはずです。あいさつも同じで、返ってくるかどうかは気にせず、まず自分から続けることに意味があります。

朝のあいさつひとつも、明朗(ほがらか)な職場づくりの立派な一歩です。特別な予算も準備もいりません。今日から始められて、続けるほどに効いてくる。そんな実践から入るのがおすすめです。

理念を自分の言葉にしてみる

三つ目は、自社の理念を経営者自身の言葉にしてみることです。借り物の立派な言葉より、不格好でも自分の腹から出た言葉のほうが、社員の心には届きます。「うちは何を大切にする会社か」を、一度書き出してみましょう。

きれいにまとめようとしなくて大丈夫です。まずは箇条書きでも、思いつくままでも構いません。大切なのは、経営者自身が腑に落ちているかどうか。腹落ちしていない理念は、掲げても浸透していきません。

言葉にしたら、朝礼や日々の会話で、折にふれて口に出してみてください。繰り返し語られる言葉だけが、少しずつ社風に根づいていくのでしょう。理念づくりを本格的に進めたい方には、先ほどの経営理念とはの記事も手がかりになるかと思います。

一人で抱えず「学び合う場」を持つ

四つ目のヒントは、同じ志を持つ経営者と学び合える場を、一つ持っておくことです。倫理経営は一人でも始められますが、続けるとなると、一人ではなかなか心が折れやすいものです。

経営者は孤独になりがちな立場です。弱音や迷いを打ち明けられる相手が、社内には案外いません。だからこそ、利害を離れて本音で学び合える仲間の存在が、実践を続ける確かな力となってくれます。他者の実践談から、思わぬ気づきをもらえることも多いものです。

倫理経営を学ぶ場の一つに、倫理法人会の朝の集まりがあります。倫理法人会そのものについて先に知っておきたい方は、湯島倫理法人会とは|文京区・月曜朝に集う経営者の学びの場をご覧いただくと、雰囲気がつかめるはずです。

倫理経営を始める4つのヒント 振り返りチェック

  • 経営者自身の足元を整える(時間・機嫌・身のまわり)

  • 約束を守り、あいさつを大切にする

  • 理念を自分の言葉にして口に出す

  • 学び合う場を一つ持つ

できるものから、ご自身のペースで一つずつ。

倫理経営を学び、実践する場としてのモーニングセミナー

考え方は分かっても、一人で続けるのは難しいものです。同じ志の経営者と朝に集い、実践を分かち合う場があると、学びは確かなものに育っていきます。最後に、湯島倫理法人会の朝の学びの場を、無理のない入口としてご案内します。

毎週月曜の朝、文京区湯島に集う経営者の学び場

湯島倫理法人会は、東京都文京区湯島3-6-1の全国家電会館1階で、毎週月曜の朝にモーニングセミナーを開いています。開会は7:00、終了は8:00、およそ1時間、経営者どうしが体験を分かち合いながら学び合う時間です(開催概要は湯島倫理法人会の公式ページに掲載しています)。終わればそれぞれ、一日の仕事へ向かっていかれます。

湯島倫理法人会 モーニングセミナー 開催のご案内

開催

毎週月曜文京区・全国家電会館1階

時間

7:00〜8:00朝礼は6:30〜

ゲスト参加費

無料初めての方も歓迎

一度きりのご参加でも歓迎しています。お気軽にお越しください。

内容は堅苦しいものではありません。その日の講話者が、自らの体験や気づきを率直に語る。聞く側も、自分の経営に引きつけて受け取る。そんな飾らないやりとりの中に、倫理経営のヒントが自然とちりばめられています。

倫理経営を体系立てて学ぶ機会としては、年に一度の倫理経営講演会もあります。その概要を知りたい方は、倫理経営講演会とは|東京での内容と参加方法をやさしく解説もご参照ください。

まずはゲスト参加から、朝の空気に触れてみませんか

文章でどれだけ「倫理経営が大切です」とお伝えしても、実際の空気はご自身で感じていただくのが一番です。湯島倫理法人会のモーニングセミナーは、初めての方もゲストとして無料でご参加いただけます。一度きりのご参加でも、心より歓迎しています。

当日は、受付でお名前を「ゲストです」とお伝えいただくだけで十分です。会員が席や進行をそっとご案内しますので、勝手が分からず戸惑う心配はいりません。当日の流れをあらかじめ知っておきたい方は、倫理法人会モーニングセミナーの参加方法|初参加で迷わない朝の流れに詳しくまとめています。

朝の一時間を、少しだけ自分の学びのために使ってみる。その小さな試みが、思いがけない気づきやご縁につながることもあります。倫理経営を、ご一緒に学び深めていけたら嬉しく思います。皆様のゲスト参加を、心よりお待ちしております。

よくある質問

Q. 倫理経営とは、ひとことで言うと何ですか?

時代が変わっても揺るがない原理原則(=倫理)を判断の軸に置いて経営することです。うそをつかない、約束を守る、感謝を忘れない——といった当たり前を、会社の意思決定の場面でも大切にする姿勢とお考えいただくと分かりやすいかと思います。特別に難しい理論というより、足元の実践に近いものです。

Q. 倫理経営とコンプライアンス(法令遵守)は同じものですか?

重なる部分はありますが、少し違います。コンプライアンスが「法律やルールを破らない」という守りの線引きだとすれば、倫理経営は「人として、会社として何が望ましいか」を自ら考えて選ぶ、もう一歩踏み込んだ姿勢です。ルールに書かれていない場面でも判断の拠りどころになる、という点が大きな違いだと感じています。

Q. 小さな会社でも倫理経営に取り組めますか?

はい、むしろ小さな会社ほど、経営者の姿勢が社内にまっすぐ伝わりやすいと言えます。制度や仕組みを整える前に、あいさつを大切にする、約束を守るといった足元の一歩から始められます。ご自身のペースで、無理なく続けられる範囲から取り組んでみてはいかがでしょうか。

Q. 倫理経営は、何から始めればよいですか?

まずは経営者ご自身の足元を整えることから、とお伝えしています。時間を守る、朝のあいさつをする、感謝を言葉にする——そんな小さな実践の積み重ねが土台になります。加えて、同じ志の経営者と学び合える場を一つ持っておくと、迷ったときの支えになります。

Q. 倫理経営を学べる場は、湯島にありますか?

湯島倫理法人会では、毎週月曜の朝にモーニングセミナーを開いています。経営者どうしが体験を分かち合いながら学び合う場です。ゲスト参加は無料で、一度きりのご参加でも歓迎しています。まずは朝の空気に触れていただくところから、ご一緒できたら嬉しく思います。

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