会場に響く温かい拍手と、目頭を熱くした参加者たち。東京都後継者倫理塾第19期の修了式で、湯島倫理法人会の荒井優作さんと瀧倉修さんが語った言葉は、10か月間の劇的な変化を物語っていた。声を震わせながら発表した二人の姿に、会場全体が深い感動に包まれる。なぜ、これほどまでに人の心を動かすのか。その答えは、彼らが歩んできた苦悩と成長の軌跡にあった。

【荒井優作さんの軌跡】家族の絆を取り戻した大学生の挑戦

見つめ直した自分のルーツ

現在大学3年生で生物学を学ぶ荒井優作さん。入塾当初の彼は、自分の家族との関係に深い悩みを抱えていた。後継者倫理塾の宿題の一環である家系図の作成で、 実際に先祖の名前を聞いた時、「全く馴染みのないもので、自分の両親より前の世代の方々と関わることがなかった」ことに気づいたのが転機となった。

そこから荒井さんは「元と繋がる」ことを決意。祖先と繋がるために般若心経を唱える実践を始めた。最初は一人で続けていたが、継続の難しさを感じ、父親にも一緒に唱えることを頼んでみた。「父は快く受けてくれて、私と一緒に実践をしてくれるようになりました」。

父親との新たな絆の発見

般若心経を一緒に唱える実践を通じて、荒井さんは父親に「ありがとう」と言えるようになった。対話を重ねる中で、「自分の父は仏教に熱心で、家族思いな素敵な人なんだ」ということに気づいた。しかし、母親との向き合いは別の課題だった。

幼少期の痛みと向き合う勇気

なぜ母親と向き合うことを避けてしまうのか。その答えは荒井さんの幼少期にあった。「両親はよく喧嘩をしていて、父はあまり育児に参加しない人でした。そこから私は自分の両親は私のことを愛しているのだろうかと疑問に思うようになってしまいました」。

高校時代、コロナ禍で生活習慣が乱れ、授業に身が入らなくなった荒井さん。成績が悪化し、心配した両親から勉強についての助言を受けても、当時の彼には「責められているようにしか感じられませんでした」。家に帰らず学習塾で過ごす日々が1年間も続いた。

ついに感情が爆発し、嗚咽しながら両親に訴えた。「わかりやすいように行動していたつもりなのにわかってくれなくて、毎日毎日何かしら言われてきて、それがとてもつらかった」。しかし、言葉にならない思いは伝わらず、荒井さんは親を信じることができなくなってしまった。

ハグの実践が家族を変えた

後継者倫理塾での学びで「苦難には立ち向かう」ことを理解した荒井さん。同じ湯島倫理法人会の田代事務長(令和7年度)から「ハグをすることで家の雰囲気が良くなった」という話を聞き、母親とハグをする実践を始めた。「最初は笑顔も増え、家の雰囲気もだんだんと良くなりました」。

しかし、お互いに忙しくなり実践を怠ってしまうと、また両親の喧嘩が始まった。荒井さんは「この実践をさぼったことが喧嘩の原因なんじゃないか」と澤田塾長に相談。「あなたには両親を信じるという朗らかな心がない」と指摘され、深く反省した。

祖先への祈りが起こした奇跡

両親の仲裁をするのではなく、祖先と繋がり、その祖先に親の仲直りをお願いするために墓参りをすることにした荒井さん。途中で「これでいいのだろうか」と疑ってしまったが、澤田塾長から「信じることが大切だ」と言われ、「この思いは親に伝わったんだ」と確信して帰宅した。

すると夕飯時、険悪な雰囲気を覚悟してリビングに戻ると、「普通に親が会話をしていました」。あまりにも早い成果に驚いたが、「朗らかな心を疑わずに朗らかな心でいることが大事だ」と実感した荒井さんは、力強く宣言した。

「これを忘れずに、私は朗らかな心で両親とともに、これからも実践を続けてまいります」

【瀧倉修さんの軌跡】亡き父への手紙が導いた心の再生

故郷への想いと現実のギャップ

徳島出身の瀧倉修さんは、故郷の特産品である和三盆の甘みを生かしたチョコレート作りに情熱を注いでいた。3年前から徳島に戻り、一心にその思いで走り続けてきたが、「人間関係ではいろいろなつまずきばかりで、うまくいかない」状況に直面していた。

困難な状況での決断

約2か月前、瀧倉さんは人手不足により、製造も販売も一人でこなさなければならない状況に陥った。「もう塾には参加ができない」と思った時、澤田塾長から「打つ手は無限、なんとしてでも参加できるように頑張ってみな」と励まされた。

17歳の記憶と向き合う

瀧倉さんの人生には、深い傷があった。「私の父は、高校3年生、17歳のときに亡くなりました。お父さん自ら命を絶った」。その日から時が止まったような感覚で生きてきた瀧倉さんは、時には「社会に殺されたとまで思うこと」もあった。

塾長から厳しく問いかけられた。「結局仕事のことを優先してるよね。塾のことをおろそかにしてるんじゃないか。このまま仕事を続けていても、結局中途半端で終わるよ」。また、「あなたはこの10ヶ月、一体何をしてきたんだ」と涙ながらに叱られ、自分が本当の意味で塾の学びに向き合えていないことを痛感した。

父への手紙が開いた新たな扉

小池運営委員長からは「本当に心の奥底であるものを魂で叫んでみなさい」と言われ、武田副運営委員長からは「お父さんに手紙を書いてみたら」とメッセージをもらった。その瞬間、瀧倉さんは「自然と嬉しくなりました」。

父親について何十年も考え尽くしてきたと思っていたが、「本当の意味での対話は、したことがありませんでした」。それから日々手紙を書く実践を始めた。

父の背中に見つけた誇り

手紙を書き続ける中で、瀧倉さんの心境に大きな変化が生まれた。「学生の頃、小さい頃思ってた、自分に向き合ってくれてない、冷たいと思ってたお父さんの背中は、実は日々毎日計画的に夢を持って過ごしてた誇らしいお父さんの姿でした」。

修了式で読み上げた父への最後の手紙には、深い感謝と決意が込められていた。

「お父さんは間違いなく一番尊い存在です。言葉ではなくて、行動をもって示してくれていたこと、その姿に改めて力強さと誇りを確信しました。魂というものがあるならば、お父さんから受け継いだ魂は気高い。そのことを誇りに勇気という力をこれから使って歩んでいきます」

【感動のクライマックス】二人が見つけた希望の光

荒井さんと瀧倉さん、二人とも家族との関係に深い傷を抱えていた。しかし、後継者倫理塾での10か月間の学びと実践を通じて、その傷は癒やされ、新たな絆へと昇華された。朗らかな心で両親との実践を続ける決意を語る荒井さん、亡き父への感謝と誇りを胸に未来に向かう瀧倉さん。二人の発表に、会場は温かい拍手と感動に包まれた。

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