「幹部が、なかなか育たない」。日々の経営に追われながら、そんなもどかしさを抱えておられる経営者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。任せたい気持ちはあるのに、つい自分でやってしまう。そのお気持ちは、とてもよく分かります。
先に、この記事でお伝えしたい結論から共有させてください。幹部育成とは、社長の判断を分かち合える「右腕」を育て、経営を安心して任せられる状態へ少しずつ近づけていく営みです。その鍵は、日々の「任せ方」を段階的に変えていくことにあると、多くの経営者の方が語っておられます。特別な研修制度がなくても、明日から手をつけられる部分が、きっとあります。
本記事では、幹部育成とは何かという整理から始めます。うまくいきにくい理由、任せ方の4つの段階、社外の学びの活かし方までを、順にご一緒に見ていきます。私たち編集部も倫理経営を学ぶ一員として、日々考えさせられているテーマです。お役に立てる部分があれば、嬉しく思います。
Contents
幹部育成とは|社長の右腕を育て、経営を任せられる状態をつくること
幹部育成とは、単に役職や肩書きを与えることではありません。社長の判断を分かち合える「右腕」を育て、経営を安心して任せられる状態へ近づけていく営みです。一般社員の育成が「担当業務を確実にこなす力」を伸ばすものだとします。一方で幹部育成がめざすのは、「経営者の視点で全体を見て、判断できる力」を育てることです。
この2つの数字が映し出すのは、「任せられる人がいない」という共通の悩みです。多くの中小企業が、同じ壁の前に立っているのではないでしょうか。だからこそ、幹部育成は特別な会社だけのテーマではなく、事業を続けていくすべての経営者にとっての現実的な課題だと言えます。
背景にある人材不足の数字を、あらためて視覚的に確かめておきましょう。
中小企業が直面する「任せられる人材」の不足
感じる企業
(後継者不在率)
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」「全国企業後継者不在率動向調査」
「幹部」と一般社員の育成は何が違うのか
幹部育成と一般社員の育成は、めざすゴールがそもそも異なります。一般社員の育成は「与えられた仕事を正確に、早くこなす力」を伸ばすものです。幹部育成は、「何をやるべきかを自分で考え、決める力」を育てることに重心があります。
たとえば、ある業務でトラブルが起きたとき。一般社員には「手順どおりに正しく対応する力」が求められます。一方で幹部には、「そもそもこの業務のやり方を変えるべきか」まで踏み込んで考える視点が期待されます。目の前の作業を超えて、全体最適で物事を見る。この視点の差が、育て方の違いにつながっていきます。
ここで大切にしたいのは、幹部候補を「特別な優秀者」に限定して探さないことです。今は目立たない社員の中に、まだ表に出ていない判断力が眠っていることも珍しくありません。役割を与えられて初めて伸びる方も、たくさんいらっしゃいます。
幹部育成が中小企業の成長を左右する理由
幹部が育つかどうかは、会社が社長一人の力量を超えて成長できるかどうかを大きく左右します。社長がすべての判断を握っている間は、会社の成長速度は社長の時間と体力の上限に縛られてしまうからです。
社長が判断を手放せる領域が増えるほど、会社は社長一人の器を超えて伸びていきます。逆に、細かな決裁まですべて社長を経由する状態が続くと、意思決定が渋滞し、現場のスピードが落ちていきます。これは、事業が伸びている時期ほど痛感される部分ではないでしょうか。
一般社員の育成と幹部の育成は、めざす地点が違う
評価軸:遂行の質(正確さ・速さ)
- 与えられた仕事を正確にこなす力
- 決められた手順を守り、早く仕上げる
- 担当業務の範囲で成果を出す
評価軸:判断と全体最適
- 何をやるべきかを自分で考え、決める力
- 目の前の作業を超えて全体を見る
- やり方そのものを問い直し、改める
もちろん、私たちも「こうすれば人が育つ」という万能の答えを持っているわけではありません。ただ、任せ方を少し変えるだけで景色が変わったという声は、数多くうかがってきました。
なぜ中小企業の幹部育成はうまくいきにくいのか
中小企業の幹部育成がうまくいきにくい背景にあるのは、社長の力不足ではなく、中小企業ならではの構造的な難しさです。人手にゆとりがなく、社長自身がプレイヤーとして動かざるを得ない環境が、任せる余白を奪っているのです。
つまり「育てる意志がない」のではありません。「育てたいのに、育てる余裕が生まれにくい」という状態に、多くの経営者の方が置かれています。まずはこの構造を、責める気持ちなしに眺めてみることが出発点になるはずです。

社長がつい仕事を抱え込んでしまう構造
幹部が育たない最初の壁は、社長が仕事を抱え込んでしまう構造にあると言えます。中小企業では、社長が最も経験豊富で、最も速く正確に仕事をこなせる存在であることも多いものです。そのため、自分でやったほうが早いという判断が、日々くり返されていきます。
短期的には、社長がやったほうが確かに効率的です。けれども、その積み重ねが「社長にしかできない仕事」を増やし、幹部が経験を積む機会を静かに奪っていきます。任せなければ育たない。しかし任せる余裕がない。この堂々巡りに、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
私自身も、以前は「これは自分がやったほうが確実だ」と抱え込み、結果として周囲の成長の機会を狭めてしまった経験があります。手放すことの難しさは、頭で分かっていても、なかなか行動が追いつかないものです。
「任せたいのに任せられない」の正体
「任せたいのに任せられない」という感覚の正体は、多くの場合、完成度への不安です。任せた結果、品質が下がったり、お客様に迷惑がかかったりするのではないか。その心配が、手放す一歩をためらわせます。
この不安は、経営者として当然のものです。責任感が強い方ほど、強く感じられる傾向にあります。ただ、完璧を最初から求めてしまうと、任せられる仕事は永遠に生まれません。最初は完成度が7割でも構わない、と考えられる範囲から手放していくと、少しずつ状況が動き出します。
任せる範囲の設計については、中小企業の役割分担|社長が抱え込まず幹部が育つ組織のつくり方でも整理していますので、あわせてご覧いただけたらと思います。
育てる時間が取れないというジレンマ
もう一つの壁は、育成に充てる時間が取れないというジレンマです。日々の業務が立て込む中では、じっくり人を育てる時間は「あとまわし」にされがちです。緊急ではないけれど大切なこと。幹部育成は、まさにその領域に位置しています。
ここで有効なのが、育成の時間を特別に確保しようとするのではなく、日常業務の中に「任せて振り返る」流れを組み込む発想です。新しく時間をつくるのではなく、いま社長がやっている仕事の一部を、任せ方を変えて幹部候補に渡していく。そうすれば、日々の仕事そのものが育成の場に変わっていきます。
幹部が育つ『任せ方』の4つの段階
幹部を育てる鍵は、日々の「任せ方」を段階的に変えていくことだと言えます。いきなり丸投げするのでも、いつまでも指示し続けるのでもありません。指示・相談・委譲・見守りという4つの段階を、相手の成長に合わせて少しずつ移していきます。
大切なのは、この段階を飛ばさないことです。指示の段階の人にいきなり委譲すれば、本人も会社も苦しくなります。相手が今どの段階にいるかを見極めながら、半歩ずつ手を離していく。その丁寧さが、幹部育成では効いてきます。
つなぎとして、4つの段階と、それぞれの社長の関わり方・任せる範囲を一枚に整理しました。ご自身の幹部候補が、いま どの段階にいるかを思い浮かべながらご覧ください。
| 段階 | 社長の関わり方 | 任せる範囲 | つまずいたとき |
|---|---|---|---|
| 1. 指示 | やり方まで具体的に伝える | 決められた手順の遂行 | すぐに手を貸す |
| 2. 相談 | まず本人に考えてもらい助言する | やり方の一部を本人が選ぶ | 一緒に考え直す |
| 3. 委譲 | 判断を任せ、結果を報告してもらう | 決められた範囲での意思決定 | 振り返りを共にする |
| 4. 見守り | 任せきり、求められたら支える | 目標達成までの一切 | 必要なときだけ関わる |
この4段階は、一人の幹部の中でも仕事の種類ごとに違っていて構いません。ある業務は委譲、別の業務はまだ指示、という濃淡があって自然です。
指示から相談へ、相談から委譲へと移していく
任せ方の第一歩は、「指示」から「相談」へ、そして「委譲」へと、関わり方の重心を移していくことです。指示の段階では、やり方まで具体的に伝えます。相談の段階では、まず本人に考えてもらい、社長が助言役に回ります。
この「まず本人に考えてもらう」という一手が、判断力を育てる土台です。答えをすぐに渡すのではなく、「あなたならどうする?」と問い返す。手間はかかりますが、この積み重ねが、自分で決められる幹部を育てていきます。支える側に回るリーダーシップの姿勢については、サーバントリーダーシップの実践|中小企業の現場で活かす5つの行動も一つの参考になるはずです。
権限と責任をセットで渡す
任せるときに欠かせないのが、権限と責任をセットで渡すことです。責任だけを負わせて権限を渡さないと、幹部は「決められないのに責められる」という苦しい立場に置かれてしまいます。これは、幹部候補が疲弊してしまう典型的なパターンです。
たとえば、ある案件を任せるなら、「この予算の範囲までは、あなたの判断で決めてよい」と権限の線引きを明確にします。決めてよい範囲がはっきりすると、本人は安心して動けます。権限の範囲を明確にすることが、任された側の安心と主体性を生みます。任せる側の腹のくくり方が、ここで問われるところです。
失敗を織り込んで見守る余白を持つ
段階的な委譲を進めるうえで、避けて通れないのが失敗です。任せれば、大なり小なりのつまずきは起こるもの。その失敗を、育成の一部としてあらかじめ織り込んでおく余白が、幹部育成には欠かせません。
とはいえ、どんな失敗でも許容するという意味ではありません。取り返しのつく範囲から任せ、失敗しても学びに変えられる状況を整えておく。失敗したときに責めるのではなく、「次にどう活かすか」を一緒に考える。その関わり方が、挑戦を恐れない幹部を育てていきます。ここには、朗らかに前を向く「明朗(ほがらか)」の姿勢も、静かに通じているように感じます。
修羅場と社外の学びが幹部を鍛える|越境体験を活かす
幹部を大きく育てるのは、日常業務だけではなく、少し背伸びのいる「修羅場」と、社外で異なる価値観に触れる「越境体験」です。社内の慣れた仕事の中だけでは、視野はどうしても社内の常識にとどまりがちだからです。
実際、幹部育成をテーマにした発信の場でも、この観点は数多く語られています。動画サイトでも「修羅場や70%の法則で任せて育てる」「組織の硬直化をどう防ぐか」といった実務家の解説が数多く見られます。越境と権限委譲による育成が、広く論じられている様子がうかがえます。関心の高さがあらわれた部分だと受け止めております。
社内の経験と社外の学びが、どのように幹部の成長へ循環していくのかを図にしました。
社内の経験と社外の学びが循環して幹部が育つ
越境の学びのサイクル
少し背伸びのいる役割を渡す
異業種の経営者と出会い視野が広がる
自社の当たり前を見つめ直す
新しい視点を社内に活かす
4 のあと、また 1 へ。往復のたびに幹部は一段ずつ育っていきます
「70%できそうなら任せる」という考え方
越境体験を促すうえで一つの目安になるのが、「70%できそうなら任せる」という考え方です。完璧にこなせる仕事ばかりを与えていては、人はなかなか伸びません。今の力では少し届かない、けれど背伸びすれば手が届きそうな役割こそが、成長を引き出します。
大切なのは、任せたあとに見放さないことです。少し難しい役割を渡し、つまずいたときには支えに入る。この「任せる」と「支える」の往復が、幹部を一段引き上げていきます。私たちも、思いきって任せてみたら想像以上の働きを見せてくれた、という場面に何度も出会ってきました。人は、信じて任されると応えようとするものだと、実感しています。
社外の経営者コミュニティで視野を広げる
社内だけでは得にくい学びを補うのが、社外の経営者コミュニティです。異なる業種の経営者や幹部と交わることで、自社の当たり前が相対化され、新しい視点が持ち込まれます。この「越境」は、幹部の視野を一気に広げてくれます。
社員教育を社内の仕組みとして整えることと、社外の刺激に触れる機会をつくること。この両輪がそろうと、育成の厚みが増していきます。社内の教育体制づくりについては、中小企業の社員教育の方法|人手が足りなくても人が育つ職場づくりもご参考になるはずです。社外の学びの場については、次の章でもう少し具体的に触れさせてください。
経営者自身が学び続ける姿が、幹部を育てる
幹部育成のいちばんの土台は、社長ご自身が学び続ける姿勢にあるのではないか、と私たちは考えています。どれほど立派な育成の仕組みをつくっても、社長が学びを止めていれば、その空気は自然と組織に伝わってしまうからです。
倫理経営の学びには、「自分が変われば周囲が変わる」という考え方があります。経営者自身の変化が社員に伝わり、やがて社風となって会社全体に広がっていく。幹部育成もまた、この流れの中にあるものだと感じています。
背中で示すことが、言葉以上に伝わる
人は、言葉で教えられること以上に、身近な人の姿から多くを学びます。社長が新しいことを学び、素直に実践し、失敗も隠さず分かち合う。その背中こそが、幹部にとって最も生きた教材です。
「学びなさい」と言うより、社長自身が学んでいる姿を見せるほうが、はるかに強く伝わるものです。約束を守り、朗らかに働き、周囲と和やかに関わる。そうした日々のふるまいの一つひとつが、幹部の中に少しずつ根を張っていきます。特別な指導をしなくても、社長の生き方そのものが、静かに人を育てている。そんな場面を、私たちは幾度も見てきました。
幹部と共に、朝の学びの場へ足を運ぶ
社外で共に学ぶ場の一つとして、湯島倫理法人会のモーニングセミナーがあります。会場は東京都文京区湯島の全国家電会館で、毎週月曜の朝7:00から開いています。経営者だけでなく幹部の方とご一緒に、無料でゲスト参加していただけます。
同じ講話を聞き、同じ朝の時間を共有することは、社内の会議室では得にくい対話のきっかけになるはずです。「今日の話、うちにも通じるね」という一言から、経営の話が自然と生まれることも少なくありません。共に学ぶ仲間として横に並ぶ時間が、上下関係を少しほぐし、幹部の主体性をそっと後押ししてくれるように感じています。
朝の時間が難しい方には、モーニングセミナー後に開く、よりカジュアルな交流の場「湯島つながりラボ」もあります。まずは無理のない一歩から、幹部の方とご一緒に朝の学びに触れてみてはいかがでしょうか。皆様のゲスト参加を、心よりお待ちしております。
ここまでお伝えしてきた「幹部が育つ任せ方」の要点を、最後にまとめておきます。
幹部が育つ「任せ方」5つの要点
- ✓段階的に手を離す:指示から相談・委譲へ、半歩ずつ移していく
- ✓権限と責任をセットで渡す:決めてよい範囲を明確にする
- ✓失敗を織り込む:取り返しのつく範囲から任せ、見守る余白を持つ
- ✓70%で任せる:背伸びのいる役割と社外の学びで視野を広げる
- ✓社長自身が学び続ける:背中で示す姿が、言葉以上に伝わる
よくあるご質問
幹部育成をめぐって、経営者の方からよくいただく疑問を、Q&A形式で整理しました。日々の判断の材料になれば幸いです。
幹部育成 よくあるご質問
Q.いつごろから始めればよいですか
Q.任せると品質が下がりそうで、つい自分でやってしまいます
Q.幹部候補が社内に見当たらないときは
Q.外部研修に出すと辞めてしまわないか心配です
Q.経営者と幹部が一緒に学べる場はありますか
幹部育成は、いつごろから始めればよいですか
早いに越したことはありません。事業が回っているうちから、少しずつ判断を任せる場面を増やしていくのがおすすめです。危機が訪れてから急に育てようとすると、社長も候補者も余裕を失いがちだからです。日々の小さな委譲から始めてみてはいかがでしょうか。
任せると品質が下がりそうで、つい自分でやってしまいます
そのお気持ちは、とても自然なものだと感じます。最初は完成度が下がることもありますが、それは育成の過程で織り込んでおきたい部分です。いきなり全部ではなく、失敗しても取り返しのつく範囲から任せ、少しずつ手を離す進め方が現実的です。
幹部候補が社内に見当たらないときはどうすればよいでしょうか
既存の社員の中に、まだ表れていない可能性が眠っていることもあります。少し背伸びのいる役割を任せてみると、思わぬ成長を見せる方もいらっしゃいます。社外の学びの場で視野を広げてもらうことも、一つの選択肢になるかもしれません。
外部の研修やセミナーに出すと、辞めてしまわないか心配です
その不安を持たれる経営者の方は少なくありません。ただ、学びの機会を通じて会社への信頼や誇りが深まり、かえって定着につながる例も多くあります。学んだことを社内で活かせる場を用意しておくことが、一つの鍵になるように感じます。
経営者と幹部が一緒に学べる場はありますか
湯島倫理法人会のモーニングセミナーは、毎週月曜の朝に開いています。経営者だけでなく幹部の方とご一緒に、無料でゲスト参加していただけます。同じ学びを共有する時間は、社内では得にくい対話のきっかけにもなります。まずは気軽にお越しください。
倫理経営を朝から学ぶ、湯島の経営者コミュニティへ
湯島倫理法人会は文京区湯島3-6-1 全国家電会館1階で、毎週月曜日 朝7:00からモーニングセミナーを開催しています。初めての方もゲスト参加(無料)でお越しいただけます。朝が難しい方は9:30から始まる「湯島つながりラボ」も別会場でお待ちしています。
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