今回の湯島倫理法人会モーニングセミナーでは、十河慶子氏(湯島倫理法人会幹事)が、教師としての経験、老老介護の現実、そして倫理法人会との出会いによる心の変化について語ってくださいました。困難な状況の中で「ふたをしていた心」を開いたとき、何が見えてくるのでしょうか。
演劇と教育に捧げた37年間
十河氏は新潟県新発田市出身。戦後間もない頃、6人兄弟の末っ子として生まれ、東京学芸大学に進学されました。大学では「今の自分を変えたい」という想いから演劇研究部に入部。小劇場運動が盛んだった時代、学生たちは夏休みに四国や九州の小学校を巡業し、子どもたちに演劇を届ける活動を続けておられたそうです。
卒業後は世田谷区などの小学校教師として37年間勤務。「小学校は本当に楽しい職場だった」と振り返られます。素直な子どもたち、家族のように優しい同僚。学芸会では「一人はみんなのために、みんなは一人のために」という舞台づくりを大切にされ、どの子にもスポットライトが当たるよう工夫されていたとのこと。教師の劇団活動も並行して続け、教育の歴史を題材にした創作劇を35年間にわたって上演されてきました。

定年後に訪れた試練
しかし定年後、十河氏を待っていたのは想像を超える困難でした。夫が69歳で脳出血により右半身不随となり、介護が必要な状態に。さらに投資詐欺や振り込み詐欺により経済的な困窮に見舞われます。「老後資金ゼロ、持ち家なし、貯金なし」という状況に追い込まれました。
追い打ちをかけるように、十河氏ご自身もがんを患い手術。術後の神経痛は激しく、声も出なくなるほどだったといいます。「このまま二度と目を覚まさないのではないか」という恐怖の中、しばらく引きこもる日々が続きました。
私たちは順風満帆な人生だけを送れるわけではありません。十河氏のように、突然の困難に直面することは誰にでも起こりうることではないでしょうか。
倫理との出会い、そして「ふたを開ける」決意
そんな中、健康セミナーで出会った笹崎さんから「モーニングセミナーに来ない?」と誘われます。そして、このチャンスを逃すと二度と誘われることはないと思い、入会したそうです。
最初は戸惑いもありました。頭の中がごちゃごちゃで感想をまとめられない。そういう自分を見せたくないと思い、感想シェア前に帰ってしまったりもしていたそうです。そんななか、タイムキーパーの係を引き受け、短歌を始め、徐々に環境にのめり込みました。
しかし十河氏には、長年「ふたをしていた」ものがありました。
「夫のことは汚いものにふたをするように隠していた」
倫理で自分が成長するためには、自分をさらけ出さなければならない。そう感じた十河氏は、意を決して夫との関係に向き合い始めます。すると見えてきたのは、「そんな悪い人じゃなかった。これは全部私のわがままだった」という気づきでした。
「それでいいんです」という一言
転機となったのは、ある日の懇親会での出来事です。倫理研究所の津隈研究員が「老後は奥さんが歩けなくなったら介護する」という話をされているのを聞いて、十河氏は思わず声を上げてしまいます。
「私は今、老老介護で限界なんです。本当に毎日辛いです」
夫に「いずれ施設に入ることになるかもしれない」と告げたとき、夫が見せた悲しい表情が忘れられなかったと打ち明けられました。
津隈研究員はさまざまなお話をしてくださいましたが、最初に言われた言葉が十河氏の心を溶かします。
「それでいいんです」
その一言で、体が羽のように軽くなったそうです。
朗らかに、仲良く、喜んで働く
それから不思議なことが起こり始めます。夫の状態が徐々に回復し始めたのです。水もしっかり飲めるようになり、2時間おきのトイレも一人で行けるようになってきました。81歳という年齢で、まるで「覚醒してきている」ような変化だったといいます。
十河氏は今、倫理法人会のモーニングセミナーで何度も読む「朗らかに、仲良く、喜んで働く」という言葉を、家でも実践されているそうです。
そして気づかれました。「私を今の私にしてくれたのは、子どもたちだった。あの頃の同僚だった。先輩たちだった。劇団仲間だった」と。
それは過去の思い出ではなく、「昔取った杵柄を利用して、新しい価値観を作って奉仕活動できるんじゃないか」という未来への希望へと変わっていったのです。

観覧型ではなく、参加型の人生へ
十河氏は最後にこう締めくくられました。
「これから衰えていくだけだよね、という感覚にならないで。私も何かいいことができるかもしれない。そういう前向きな考え方で、これから積極的に生きていきたい」
困難な状況の中でも、「ふたをしていた心」を開き、目の前の現実と向き合う。その勇気が、十河氏を「観覧型」から「参加型」の人生へと導いたのではないでしょうか。
教師として子どもたちに寄り添い、演劇を通じて人の心を動かしてきた十河氏。その経験は今、老老介護という現実の中で、夫を「ふんわりと抱きしめる」優しさへと昇華されています。
私たちも、目を背けたくなる現実に「ふた」をしていないでしょうか。十河慶子氏の講話は、その蓋を開ける勇気と、そこから始まる新しい人生の可能性を教えてくださいました。
湯島倫理法人会では、毎週月曜日の朝、このような学びの場を開催しております。朗らかに、仲良く、喜んで働くための実践の一歩を、ご一緒に踏み出してみませんか。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
自分をさらけ出せる安心の場で、朗らかに、仲良く、喜んで働く経営を学びませんか。
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